やさしい恋のはじめかた
だったらなぜ? どうして今、急に?
なんで桜汰くんは手放したくないと思えるの?
好きは好きでも大海に向かう気持ちとは違ったものだったはずの桜汰くんへの〝好き〟に急激に色と熱が生まれて、そんな自分に戸惑うばかりだ。
「あ、いた。里歩子、もしかして具合悪い? 戻ったら姿がなくて、慌てて飛び出してきた。スタジオって閉鎖的な上に照明もガンガンに焚くから、むっとして暑いんだよ。すぐに良くなる程度ならいいんだけど……」
すると、扉が開かれ、スタジオの入り口付近の壁にぼうっと寄りかかっていた私を目に止めた桜汰くんが、心配そうに顔を覗き込んできた。
その拍子にふっと桜汰くんの香りが漂い、私の鼻腔をくすぐる。
ふらふらと瞳を揺らしながら桜汰くんの顔を視界いっぱいに入れれば、今までは至近距離で見つめられてもドキリともしなかった心臓がびっくりするほど跳ね、思わず思いっきり顔を背けてしまう。
おかしい、おかしい。
ずっと安心する匂いだったはずのに、なにかこう……煽情的なものが掻き立てられて、桜汰くんが直視できない。
「……里歩子?」
「うん、だ、大丈夫だから……」
「でも、顔真っ赤だぞ。今冷たいもの買ってくるから、体に入れて内側から冷やしたほうがいい。きっと自分で思ってる以上に疲れも溜まってたんだって。全然大丈夫そうに見えないよ」