やさしい恋のはじめかた
そう言うと、桜汰くんは近くの自販機まで駆けていった。
すぐに手渡されたミネラルウォーターの冷たさが、すっかり指の先まで熱くなっている手に心地いい。
「……ねえ、私、大丈夫そうじゃないかな? 自分の足で歩けてない感じする?」
尋ねると、私と同じようにして隣の壁に寄りかかった桜汰くんから、少し困ったような声の調子で「河野さんや仕事のことで行き詰まってたときとは違う感じで大丈夫そうじゃないかな」と返事が返ってくる。
そして「そんなに自分の足で歩けてない感じするの?」と質問返しされてしまった。
「仕事のほうは、今の部署でやっていくってすぐに決められたの。髪だって少し伸びてきたし、精神的なきつさは変わらないけど、今のほうが自分には合ってるって本心から思う。でも、桜汰くんと彼との間でずっとフラフラしてて……」
「え、それでいいんじゃないの?」
「よくないよっ。今だって、自分の気持ちが思ってたものとは違う方向に急に向かいはじめて、頭が全然追いつかない。おかしいの、最低だよ、こんなの……。桜汰くんに依存してるとしか思えない」
苦々しく吐き出した言葉は、すべて自分に対してのものだった。
あんなに自分の足で歩くことだけは諦めないでいようと思ったのに、何ヶ月としないうちに結局こうなんだもの、そんな自分にとことん呆れ返って言葉も出ない。