やさしい恋のはじめかた
けれど桜汰くんは、それを「里歩子は真面目すぎるんだよ」の一言で簡単に片づけてしまう。
しかも、こっちは頭を抱えたくなるくらい必死になって悩んだり戸惑ったりしているっていうのに、どこか嬉しそうな笑みまで添えて。
「みんなもういい大人なんだし、いろんなことがある。感情は日々進化もするし退化もする。流動的なんだって、感情は。それが普通なんだと思う。だから、もしかしたら里歩子は、まずそれを受け入れる器を育てることが必要かもな」
「……器?」
「そう。例えば、さっきから俺にドキドキしはじめてることとか。知らんぷりしたけど、急に目を逸らしたり真っ赤になったりするのって、今までなかったから。依存ってそういう意味でしょ」
「っ……、……」
ああ、もう。
心の中でそうつぶやくのは、この短時間でもう何回目になるんだろうか。
すっかり見抜かれてしまっていて、たまらず壁伝いにへなへなとしゃがみ込む。
まったくもってそういう意味だから、いくら手で顔を覆って隠しても、隠しきれない耳はきっと真っ赤、桜汰くんに見えていないことを祈るのみだ。
「はは。まあそこは里歩子らしくやればいいんじゃない? もっと楽に考えろとか流れに任せてみろって言うのは簡単だけど、それじゃ里歩子が納得できないことは10年付き合ってればわかってるし、それが里歩子の歩き方だろ。バカがつくほど真面目で頑固な里歩子らしく、一歩一歩、自分の足元を見てよちよち歩け」