その愛の終わりに
翌朝、山川と共に診療所へ行く義直を見送り、美都子は出掛ける支度を済ませた。
いつもなら買い物となると一緒に来たがる姑は、女学校時代の友人と四国へお遍路巡りに行っているため、来月まで帰ってこない。
「たまには息抜きなさいまし」
女中頭のお雪のすすめもあり、美都子は初めて、一人で銀座へと赴いた。
銀座二丁目の伊勢屋で、西洋雑貨を見て回る。
年が明けて少ししたら、義直の誕生日だ。
男爵邸では盛大なパーティーが開かれるが、それとは別に美都子は個人的に義直を祝いたかった。
(時計にしようかしら……)
ついでにあちこち見ながら時計屋へと移動し、デザイン性機能性共に優れた一品を探す。
最新の腕時計は、デザイン性機能性共に申し分ないが、量産が追いついていない分値が張る。
予算内で買えるものとして、いささか懐古趣味ではあるが
蔓草模様が優美な雰囲気を醸し出す懐中時計に、美都子は惹かれた。
これなら、何年も使えそうだ。
買い物を済ませ、パーラーにでも行こうと店を出ると、見知った顔が目の前を通りすぎた。
「待って、綾子さん!?」
思わず声をかけると、藤色の中袖の女性が振り返った。
玉虫色に輝く髪に、うりざね顔のその美人は、間違いなく嶋津綾子……美都子の女学校時代の親友である。
一拍遅れて、綾子も美都子の存在に気づき、あっと声をあげる。
「みっちゃん!やだ、久しぶりね!元気だった?」
御付きの女中を置いて、足取りも軽やかに駆け寄ってくる綾子の手をとり、美都子は目を輝かせた。
「ええ、ええ!こちらは変わりないわ。生活にも慣れてきたし、そろそろ綾子さんのところに遊びに行こうと思っていたの。綾子さんこそ、お元気だった?お手紙には縁談が決まったと書いてあったけれど……」
「ねえみっちゃん、立ち話もなんだし、ソーダファウンテンにでも行かない?」
綾子の誘いは唐突だったが、美都子は間髪入れずに頷いた。
「素敵!結婚してから一度も行ってないのよ」
そこからは、まるで学生時代に戻ったかのようだった。
パーラーへ向かう道すがら、仲の良かった同級生たちの現況について、二人はおおいに盛り上がりながら話し、笑いに笑った。