その愛の終わりに


「綾子さんもとうとう結婚かぁ……」


感慨深く呟く美都子に、綾子は目を細めて悪戯っぽく微笑んだ。


「私が一番遅かったわね。みっちゃんよりは早いかなぁって思ったんだけど、思いの外さっさといっちゃったし」

「ちょっと、聞き捨てならないわね」

「だって、みっちゃん自分より頭が良い人が好きでしょう?そんな人少ないのに、あなたったらまったくの無自覚なんだもの。だから、現実を見て妥協出来る私のほうが早いかなぁって思ってたのよ」

「まあ!酷い言い草ね」


美都子は思いっきり眉を吊り上げるが、その声に刺はなく、むしろ面白がるような響きが含まれている。

結婚相手はどんな人なのか尋ねようとしたその時、二人のテーブルにアイスクリームが運ばれてきた。

一匙口に運び、綾子はたまらずその花のような顏を綻ばせた。


「美味しい!」


半分ほど食べたところで、綾子の視線がふっと遠くなったことに、すかさず美都子は気づいた。

どう、切り出したものか。

素早く思案を巡らせていたが、美都子が切り出す前に、綾子がサラリと溢した。


「私もね、しばらくここに来ることはなくなると思うの」

「どういうこと……?」


ただならぬ綾子の様子に胸騒ぎを覚えながら、美都子はその答えを待った。

アイスクリームを平らげてからしばらくして、綾子は冷めた声で言った。


「私の婚約者ね、とんでもないクズなのよ」


いつもの、溌剌とした、春の太陽のような笑顔の綾子はそこにはいなかった。

どこまでも底冷えする彼女の声に、美都子は言葉を失った。

それを気にするでもなく、淡々と綾子は語る。


「とんでもなく器が小さいのよ、あの人。例え女友達だろうと、自分の目の届かないところで私が誰かと会うのが気に入らないのよ。そのくせ、自分は新橋の芸者のもとに入り浸っているの。女癖が悪いのはどうだって良いわ。殿方に貞節を求めたって、無駄ですからね」


ソーダを一口啜り、綾子は濡れた唇を舐めた。

その仕草は女の美都子から見ても扇情的で、美都子は反射的に目をそらした。


「何が気に入らないかって、私を軽く見ている姿勢よ。自分は男だから、女の意見なんぞいらないという傲慢さ。バカバカしいったらありゃしないわ。芸者に入れ込むのは勝手だけど、家庭に影響を及ぼしかねないくらい通いつめるんだもの」


物事の分別がつかないお馬鹿さんは嫌いよ。

真っ赤に光る綾子の唇から、美都子は目が放せなかった。


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