その愛の終わりに
そういうわけだから、当面は連絡が取りにくくなるだろうと綾子は話を締めくくった。
端から聞いたらとんでもない縁談だが、冷然と微笑む綾子の様子から察するに心配はいらないようである。
嶋津綾子の武器は美貌だけではない。
明晰な頭脳もまた、綾子の持つ武器の一つなのだ。
どんな手段を用いるのか、想像がつかない。
しかし、美都子は綾子は気の乗らないこの結婚を、どうにかして終わらせるであろうと確信していた。
パーラーを出る頃には日が暮れようとしていた。
外はうっすらと寒くなりはじめ、二人は軽く手をさする。
「寒いわねぇ」
「ええ、本当に。体が冷えちゃうわ」
そのまま帰路を急ぐ綾子に別れを告げ、美都子は義直の待つ西洋料理屋に向かった。
今の時間は16時40分。なるべく余裕をもってついておきたい。
綾子を見送り、美都子は歩みを進めようとした。
が、人混みの中によく見知った顔を見つけ、ピタリと足が止まった。
これから会う予定の夫その人が、店から出てきたのだ。
しかも、その店にぶら下がる看板は真珠専門店である。
小洒落た天鷲絨(びろうど)の箱が懐におさまる瞬間まで見届けてから、美都子は考えた。
(あれ、もしかして私にかしら……?)
ちょうどあと2週間ほどで誕生日だ。
義直ほど盛大ではないが、それでも嫁いでからというもの、美都子の誕生日には男爵邸で華やかなパーティーが催されている。
別に誕生日でなくとも、まめに贈り物をしてくれる義直だが、美都子は自然とそう考えた。
(あれは、見なかったことにしたほうが良いわね)
夫の心遣いをくすぐったく思いながらも、つい笑みがこぼれてしまう。
義直の姿が見えなくなってから、美都子は再び歩きだした。