その愛の終わりに
今、何を言われたのか。
義直の思考が言葉をなぞり、その意味を理解するまでに、約十秒ほどの時間を要した。
「……どういう意味だ」
冷静さを装おうとするものの、かすかに彼の声はかすれていた。
「そのままの意味よ。人間には治せるものと治せないものがあるわ。あなたの手癖の悪さは、後者よ」
もともと美都子ははっきりとした物言いをする人間であった。
しかし、ただはっきり言うだけではなく、相手が不快に思わないように言葉を選ぶ思慮深さも有していた。
彼女が棘のある言葉を発することは稀で、義直が感情を剥き出しにした美都子を見たのは、これが初めてである。
嫉妬をされたら、優越感に浸れると思っていた。
あるいは、愛情を実感出来ると思っていた。
だが現実は、義直の想像とはまったく違った。
底冷えするような厳しい視線にさらされるだけで、そこからは愛情も執着も見られない。
義直は悟った。彼女の心にあったのは愛ではなく、尊敬なのだと。
そしてそれは、一度失ったらもう戻らないものなのだと。
また、自分の心にあったのは愛であったのだと。
「次からはもっとうまく隠してちょうだい」
その一言は確実に、義直にとどめを刺した。
遠ざかる美都子の背中を見送りながら、終わりを予感する。
結婚した時、山川をはじめとした友人たちが我がことのように喜んでくれたのを思い出す。
あのとき、山川は『ようやく愛する人が見つかったのだ、大事にしろ』と言っていた。
知るのが、思い出すのが遅すぎたのだ。