その愛の終わりに
「奥様!なぜここに?」
「……天気が良かったので、散歩に。ここは思い入れのある場所ですので」
咄嗟に誤魔化すように笑ってしまった美都子だが、彼女から相談を受けていた山川は何かあったのだと瞬時に察した。
「近くに団子がうまい茶屋があるのですが、よろしければお付き合い願えますか?立ち話をするには、いささか寒いですから」
「そうですわね。ぜひご一緒させてください」
何を話せば良いかわからず、美都子は黙って山川と共に階段を降りる。
山川のほうも、距離感を掴みかねて美都子をお茶に誘ったからか、何か言おうとしては口をつぐみ、の繰り返しであった。
茶屋に着き、向かい合って茶をすする。
しばらくして、美都子は何か言おうと口を開いたが、それより先に山川の声が降ってきた。
「お疲れのようですね」
美都子は顔を上げたが、山川と目が合いそうになった瞬間、視線を湯飲みに落とした。
「……あれから、どうしていいかわからなくて……結局、浮気していることを知っていると主人に言ったんです」
「それはまた……愚かなことをしましたね」
山川の静かな声に、美都子は目を見開いた。
彼の真意がわからなかった。
否、いくつかの予想はできたが、何を意図してそう言ったのかがわからなかった。
それでもその言葉が与えた衝撃は大きく、美都子はただ項垂れるしかなかった。
「まあ、その愚かさこそがあなたの美点でもあり……」
続きの言葉が不意に消え、先が気になった美都子は覗き込むように山川を見つめたが、今度は山川が目を逸らす。
「なんでもありません。ただ、予想以上にあなたの性格が真っ直ぐだったため、色々と思案した次第です」
わざとらしいくらいに冷たくそう言い、山川は固く唇を結んだ。
何やら怒っているようにも見えるその表情に不安を覚えた美都子だが、何がそんなに気に障ったのか、まったく検討がつかない。
「あの……何かお気に召さないことでもございましたか?」
「いえ、すみません。そういうわけではないんです」
心外と言わんばかりに山川は首をふるが、それでも纏う雰囲気は変わらず張りつめたものだった。
なんとなく美都子が窓の外を見ると、濃いねずみ色の雲が広がっていた。
もう少ししたら、雨が降るかもしれない。
「私たち、あの神社で式を挙げたんです。本当は東雲家で祝言を挙げるはずだったのですが、流行りの神前式でどうしてもやりたくて」