その愛の終わりに
ドイツ土産の茶器と言えば、美都子の心当たりは一つだけである。
「もしかして、マイセンのものでございますか?」
「おや、よくご存知で」
意外そうな表情を隠そうともせず、山川は目を見開いた。
その反応に気を悪くするでもなく、美都子ははにかんだ。
「去年まで主人の船の積み荷に欧州の茶器があったものですから、色々とお話しを聞いておりましたの。取り扱っていたのはイギリスのウェッジウッドなのですが、ドイツのマイセンもまた有名と聞きました」
「なるほど。で、ドイツの茶器と言えばマイセンと?」
目を細める山川だが、美都子は小首を傾げ、ゆったりとした口調でこう続けた。
「ええ、まあ。乏しい知識からそのように思いました。それにしても、とても素晴らしい品ですわ。私にはもったいないくらい。ありがとうございます」
丁寧に包装を直す美都子を横目に、山川は短く答えた。
「喜んでいただけたようで何より」
無言で、二人とも茶をすする。
それ以外に特にすることもなく、微妙な沈黙が二人の間に流れた。
今まで相手をしてきた夫の友人たちとはまったく毛色の違う山川に、美都子は少し戸惑っていた。
何か気の利いた会話の一つでも、と思うも、山川のどこか人を寄せ付けない雰囲気に気圧されて、なかなか切り出せない。
どうしたものか、と考え込む美都子だが、幸いにも山川のほうから話題を提供してきた。
「義直は……ご主人は、あなたに良くしてくれていますか?」
何かを探るようなその口調に少し引っかかるものを感じるものの、美都子は当たり障りのない答えを返した。
「ええ、とても。結婚してからは毎日が充実しておりますわ」
嘘ではなかった。
どこか燻るものはあっても、不満を感じたことなどはまったくなかった。
「……そうですか」
山川の歯切れの悪い口調に、美都子は目を逸らした。
熱でも発しているかのような真っ直ぐな視線が美都子を貫く。
全身の血が沸々と沸き上がりはじめる。
いたたまれなくなり、お茶のお代わりを勧めると美都子は窓の外を窺うふりをして立ち上がった。
夫以外の男性と二人でいるのは、見合いの時以来である。
そして山川雄二郎は、今まで美都子が見合いをしてきたどの男性よりも美しく、魅力的だ。