その愛の終わりに
美都子は義直に買い与えられた華奢なデザインのドレッサーの前で、ぼんやりと佇んでいた。
階下に、あの絶世の美貌を誇る山川がいると考えるだけで指先が熱くなり、体が震える。
正直、もうこれ以上関わりたくはなかった。
しかし、時計の針はそろそろ晩餐の時刻を指す頃合いで、側には女中が控えている。
「……私の部屋の宝石箱から、ルビーのネックレスを取ってきてちょうだい」
装いを着物から体にぴったりとしたラインのドレスに替え、美都子は鏡の前で髪を櫛梳った。
いつもより入念に髪をとかす。
食堂までエスコートしてくれる夫は、きっと扉の前で待っているはずだ。
「あなた、お待たせしてごめんなさい……」
扉を出てすぐ、支柱の影から夫よりはるかに背の高いシルエットが動く。
美都子は思わず息を止めた。
「山川さん……」
そこにいたのは夫ではなく、山川だった。
白皙の美貌を誇るその顔には、微苦笑としか形容しようのない、なんとも言えない微笑みが浮かんでいる。
「ご夫君でなくて申し訳ない。彼は今、その……厠にこもっていてね」
うっすらと夫の体調を察した美都子は、山川につられるように苦笑いを浮かべた。
そして非礼を詫びようと口を開いた瞬間、山川は続けてこう言った。
「先に晩餐をはじめて欲しいとのことです」
「申し訳ございません。せっかくお越しくださったのに……」
自分に山川の相手が務まるとも思えず、美都子はとっさに不安そうな表情を隠しきれなかった。
山川は目敏くそれを見るなり、ゆったりとした仕草で美都子に手を差し出した。
「食堂までエスコートさせてください、マダム」
低い声が水のように体に浸透していく。
山川は、一挙一動がすべて洗練されていた。
つい最近までドイツにいたからか、その物腰はこれまで美都子をエスコートしてきた誰よりも優雅だ。
よく欧米諸国をまわる義直よりも――――
「そのドレス、よくお似合いですよ」
シャンパンを片手に、そつなく美都子の装いを褒める山川に、美都子は純粋に嬉しさを覚えた。
光沢のあるサテン地の、ベージュのイヴニングドレスは美都子の気に入りだった。
普段身につけている洋服は義直が見立てたものばかりだが、このドレスは珍しく美都子が選んだものだった。
まるで自分の審美眼を褒められたようで、思わず微笑みがこぼれる。