嘘から始まる運命の恋
 カイに言われて、私はグラスを両手で握って、こくり、とうなずく。

「そうなの。今でも辞めなければ違う人生があったかも、なんて思ったりもするけど、辞めなかったら本当はピアノが好きだったんだって気づけなかったかもしれないし」

 しんみりしてしまう気持ちを持ち上げようと、無理に笑顔を作った。

「ま、大学時代はサークルで楽しんだから、今は趣味で弾くくらいでちょうどいいかなって思ってる」
「そう」

 なんだかカイの声までしんみりしている。

 私はグラスを口に運んだ。

 カイがぽつりと言う。

「俺も、一度サックスから離れたことがあるよ」
「そうなの?」

 カイの方を見ると、彼がうなずいた。

「俺、中学、高校と吹奏楽の強豪校に通ってたんだ。コンクールでは全国大会の常連でさ。もちろんそれは部全体のレベルが高いからだけど、でも、サックスは俺が引っ張ってるって自信もあった」
「わ、そうなんだ」

 今の落ち着いた印象の彼からは想像もつかないけど。
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