キスは目覚めの5秒後に
それというのも、スウェーデンはクレジットカード社会で、ほとんどの人は現金を持ち歩かないのだ。
私たち外国人はたまにカードが使えない場面に遭遇するので、ある程度は現金を持っているけれど。
そう、何故だか日本で作ったカードが使えない時があるのだ。
それを店側に言われた瞬間の焦りと言ったらもう・・・留学時代は何度も青ざめたっけ。
若かりし頃の苦い思い出だ。
でも今のところ、ふたりで行動する範囲はほとんどカードが使えている。
今、彼は現金を持っているだろうか。
大使館に行った日にくれた紙幣が最後かもしれない。
「橘さんに訊いてみるわ」
「OK、障害はタチバナね。あとで返事してね。もし駄目だって言ったら、小さい男!って言って鼻を鳴らしてやるわ」
任せて!と頼もしく言って、エレンは金髪をさらさらと揺らしながらデスクに戻っていく。
橘さんは男子社員との会話を終えて、今は真剣な表情でパソコンのキーボードを叩いている。
話しかけても平気だろうか。
「橘さん、ちょっと相談があるんですけど、いいですか?」
「なんだ?訳のことか?」
キーボードを叩く手を止めて、すっと顔を上げて私を見る。
真剣な表情のまま、おまけに仕事の話じゃないから言葉が喉に詰まる。
今彼は超厳しい(仮)上司なのだ。
普段でもイジワルなのに・・・。
「あの、訳のことじゃないんですけど」
「なんだ?まどろっこしいな。言いにくいことか?5秒待ってやるから、早く言え」