キスは目覚めの5秒後に

眉根が寄せられてぎろりと睨まれて、ますます言いづらくなる。

歌舞伎顔が凄むとこんなに威圧感があるのか。


「あの、エレンが」

「時間切れになるぞ」

「エレンに今日一緒にランチに行こうって誘われたんです!!」


勇気を出して早口で捲し立てるように言うと、橘さんの表情から凄味が消えた。

なんだ・・・と呟いて、ふうって息を吐いている。

なんだかホッとしてるみたい?どうして?


「橘さん?」

「・・・そんなことか。いいぞ」

「あの、女子だけなんですけど・・・その・・・」

「問題ない。料理が何であっても、これだけあればいいだろう。釣りは返さなくていい。少しは持っていたほうがいいからな」


橘さんは艶ピカな金色のマネークリップを内ポケットから出して、紙幣を手渡してくれた。

500クローナ紙幣が2枚も・・今のレートで日本円に換算すると、約14000円だ。

ランチ一食のためには多すぎる金額・・・。


「ありがとうございます!」


釣りはいいだなんて、まるでどこかの御曹司みたいな台詞だ。

嬉しさと可笑しさで笑ってると、橘さんの表情も柔らかくなっていた。


「・・・あまり遠くに行くなよ。脚に障る」

「はい、エレンは近いって言ってましたから、大丈夫です」


もらった紙幣をジーンズのポケットに入れて、仕事に戻った。

みんなとランチ、超楽しみだ!




そしてお昼。


「ミヤコはタチバナと恋人同士なの?」

「どこで知り合ったの?」

「彼、優しいわよね!」


ランチを注文し終えてすぐ、みんながほぼ同時に私に話しかけてきた。

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