キスは目覚めの5秒後に
「わあ、すごい人出。さすが休日ですね」
「そうだな。なんと言っても、ストックホルムで一番の観光地だからな」
土曜日のガムラスタン。
まだ午前中だというのに、ノーベル博物館のある広場にはたくさんの人がいる。
置いてあるベンチで休憩してる人もいれば、足早に広場を横切っていく人もいる。
スマホを手に写真を取ってる人がたくさんいて、平日とは違って観光客が多い。
ノーベル博物館、ここの2階でノーベル賞の選考が行われている。
今年は日本人の科学者が受賞したって、ニュースで言っていたっけ。
超一般人で平凡な頭脳しか持ってない私からすれば、その研究のどこが素晴らしいのかさっぱり分からないけれど、とにかく栄誉あることなのだと思う。
ノーベルの横顔のある看板と丸い柱がアクセントの趣のある建物を眺めていると、橘さんが中に入るか?と訊いてきた。
「いいです。学生時代に入りましたから。それより、歩きましょう」
橘さんと並んで、石畳をゆっくり歩く。
二人だと、初日に一人で歩いたのとは気分が全然違う。
人から見れば仲がいいカップルに見えるのだろうか。
金髪の若い女子が橘さんを見てすれ違い様に微笑んでいく。
歌舞伎顔は、金髪女子の中で流行っているのだろうか。
エレンも“タチバナはいい男よね!”って言ったっけ。
でもイジワルなところを省けば、本当に素敵な人なのだ。
黙ってればモテるんだよね、きっと。
歩きながらチラチラ見てると、彼が急にこっちを向いて焦る。
「なんだ?」
「なんでも・・・あ、こっちです」
狭い路地を指差して彼を誘導する。
中世の香り漂う古い街、よく見ると外壁がはがれていたり、細い路地側の壁にはスプレーペンキの落書きなんかもあったりする。