キスは目覚めの5秒後に
ミネラルウォーターをぐっと飲んで落ち着いて、ふうっと息を吐く。
「私が橘さんの会社にって、本気ですか?」
「考えてくれないか」
いつにない橘さんの真摯な目。
もしもそれが現実になれば、橘さんが(仮)上司ではなく(鬼)上司にグレードアップするわけで・・・想像すると怖い。
でも冗談ではなく、考えてみるのもいいかもしれない。
今の会社に戻れば、会いづらい元彼や気の毒オーラが込められた女子社員たちの視線から逃れることができる。
でも、今の会社の仕事も好きなことは確かだ。やりがいがある。
「時間をください」
「わかった。いい返事を期待してる」
食事を終えて満腹になり、次のお店へと向かう。
今度は普通の雑貨店。
ここではガラス製のキャンドルホルダーを一つと、キャンドルを3個購入した。
「次は、俺の用事でいいか?」
橘さんの用事、それは私の服を買うことだった。
中央駅の辺りまで戻ってブランドショップの中に入ろうとするので、スーパーの服でいいですと断ると、強引に腕を引っぱられた。
「似合う服を適当に持ってきてくれ。あと、鞄と靴も頼む」
まるでどこかの御曹司みたいな台詞、パート2だ。
しかもパート1よりも数段グレードアップしている。
私の一生の内で、聞く機会なんてこれが最後かもしれない。
橘さんは店にあるソファに座って、店員さんが服を集めて回るのを眺めている。
まるで、娯楽映画の一場面みたいだ。
そっと確認してみると、傍にある服にはみんな値段のタグが付いていない。
こ、これはもしかして、ものすごーく高いのではないだろうか。
「た、橘さん、私こんな高そうなのはいただけません」
内緒の声で言うと、橘さんはしれっと言った。
「平気だ。衣食住を保証すると契約しただろう。パーティ用の服なんだ。これくらいが妥当だ」