キスは目覚めの5秒後に
帰国の兆し
「ミヤコ、これ日本語でしょ。なんて書いてあるの?」
エレンが持ってきた雑誌を見ると、そこには毛筆の漢字がプリントされたTシャツがいくつか載っていた。
その内の一つを指差して、私を見る。
「“絶体絶命”と書いてあるわ。意味は、どうにも逃げられない差し迫った状態、よ」
「ゼッタイゼツメイ。わお、すっごく怖い言葉なのね!でも、この形が好きよ。その流れるような字がクール!これに決めたわ」
「エレンは、これをどうするの?」
まさかエレンが着るのだろうか。
金髪エレガントなエレンが、黒に白字の絶体絶命Tシャツを着るの?・・・全然想像できない。
「弟のバースデープレゼントにするの。この中で一番クールでしょ?それでどんな言葉か知っておこうと思ったのよ。ゼッタイゼツメイね、ありがとう」
「どういたしまして」
今オフィスの中ではプチ日本ブームが起きている。
多分、私と橘さんが日本語で話したり文字を書いたりしてるのを見て、興味がわいたのだろうと思える。
自分の名前を漢字で書いて欲しい、なんて頼まれる時もある。
そういうときは思いっ切り当て字で書いてあげるのだけど、たまに、ヤンキーが使うような“夜露死苦”みたいになって苦笑してしまう。
これでいいのかな?って橘さんに訊いたら、問題ないと即答された。
意味は分からないだろうし、喜ばれているから十分だと。
そう言われればそうだなと、すぐに納得した単純な私だ。
「はい!ミヤコ、ブレイクタイムよ。ど~ぞ~」
今日はレベッカがコーヒーを持ってきてくれた。
一緒にランチした女子トーク仲間で、忘れられない男がいるって切なそうに言っていた子だ。