キスは目覚めの5秒後に

夜遅くに悪いな、なんて言ってるのが聞こえてきた。

こっちが2時頃なら、今頃日本は夜の8時くらいの筈だ。

家族や恋人なら『悪いな』なんて言わないだろうから、どうやら会社に電話しているみたい。


「まだ来れないのか?お前がいないと仕事がスムーズに運ばない」


「参ったな」なんて言ってて、なんだかとっても困ってる風だ。

関係ないけど、大変そうだ。

でも、海外勤務なんてすごくエリートな感じだけど、一人でいるなんて珍しい。

出張社員なんてゲストみたいな感じだもの、常に地元社員と一緒にいるイメージがある。

こっちで会社を興したのだろうか。

なんとなく気になってじっと見ていると、通話を終えた彼が急にこちらを向いたので、よけ切れずにばっちり目が合ってしまった。


あら、結構イケメン・・・短めの髪、一重で切れ長な目にスッと通った鼻梁。

歌舞伎俳優みたいに整った顔立ちをしている。


目を離すことができずにいると、彼は首を傾げて歯を見せずに笑った。

何か用?って感じだ。


「・・・あ」


そうだ、ダメじゃないの私ったら。

知らない人をガン見するなんて、思いっ切り失礼なことをしているではないか。


「何でもないです。すみません」


急いで頭を下げて謝って再びミートボールを食べようとしていると、カタンと椅子を引くような音がして、白いお皿の向こうに節だった長い指がトンと置かれた。

腕時計を嵌めた手首、上等そうな布のスーツ、徐々に視線を上げていくと、さっきの歌舞伎顔の男子が私を見下ろしていた。

間近で見てもイイ男だ。


「失礼。あなた日本人ですよね?」

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