キスは目覚めの5秒後に

陽気な笑い声と店員さんの元気な受け答えが店内に響く。

古民家風な作りが人気のここは、奈帆と私の行きつけの居酒屋だ。

焦げ茶色で古びた風に作ってあるテーブルの上には、チューハイとお洒落な創作料理が沢山並べられている。

これが安くて美味しいのが、ふたりのお気に入りなのだ。


「・・・でね、ようやく帰ってこれたってわけなの」

「へえ~、そんなことがあったんだあ・・・美也子すごいわ、ドラマみたいな経験したんだね。バッグを盗まれるのはゴメンだけど、ちょっとうらやましいわ。で、彼のメルアドとか訊いたの?」

「訊いてない。眠ってる間に出てきちゃったし」

「うわ、信じられなーい!」


奈帆は責めるような口調で言って、空になったチューハイのコップをダン!とテーブルの上に置いた。

そしてすかさず店員を探して手を振って、こっちこっちとアピールしている。


「すいませーん!おかわりくださーい!」


奈帆は梅酒割りを注文したあとこっちに向き直って、呆れたとばかりに首を横に振った。


「美也子、あんたなにしてんのよ。すっごくもったいないじゃないの。エリートでイケメンな上に、ベッドでは何度も満足させてくれたんでしょ?極上の男じゃないの!そこらに転がっていないわよ!?」


奈帆は拳を握って力説する。

何年も女を抱いていないのにツボを心得てるなんてすごいわよ!とも言う。

奈帆にとって一番のもったいないポイントは、そこなのか。

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