恋は死なない。



「初めて工房に来たあの日から、君のことが頭から離れなくなった。僕には婚約者がいるのに、寝ても覚めても君のことしか考えられなくなった。それで、仕事が終わると自然とここに足が向いて、今日みたいにこの工房の窓から漏れる明かりを見て……、君の存在を確かめて帰るようになって……。だから、花屋で出会ったのも、偶然なんかじゃなかったんだ。あのときは、ほんの一言、君と言葉が交わせたら、それで心が満たされて諦められると思ってた。それから時間が経つほどに君と親しくなれたけど、結婚式も迫ってきて……、君も僕の結婚に関わる人だから、この想いは僕の心の内だけで終わらせるべきことだと思ってた。……だけど」


切々と語っていた和寿はそこで言葉を切り、顔を背ける佳音の横顔を、いとおしそうに見つめ直した。


「……この前、君も僕と同じ気持ちでいてくれてると知って、もう自分が抑えられなくなった。君のことは、誰に指示されたわけでもなく、誰に望まれたことでもなく、僕自身の心が初めて欲したものだ」


和寿の一言一言が、佳音の胸にくさびとなって打ち込まれるようだった。和寿の言葉を聞きながら、佳音は夢を見ているのではないかと思った。


両親にも愛してもらえなかったこんな自分のことを、こんなにも想ってくれる人がいるなんて。

こんなにも愛しい人が、こんなふうに想ってくれることなんて、もう二度と自分の人生の中で巡ってくることなどないだろう。
愛しい人にこんなふうに抱きしめられることも、もう二度とあり得ないだろう。


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