恋は死なない。
「朝食くらい僕が作ればよかったんだけど、すっかり寝坊してしまって……」
椅子に座りながら、和寿はいつものように優しく笑いかける。
「今日は土曜日だから起こさなかったんですけど、お仕事や用事の予定はありませんでしたか?」
けれども、佳音はその笑顔を目にすることなく、ハムエッグの皿に目を落としたまま尋ねた。
「……このところ、仕事どころか、何も手に付かなくてね……。上司や副社長にも心配されて、この一週間は休みをもらってたんだ」
肩をすくめて恥ずかしそうに告白しながら、和寿もフォークを手に取って食べ始める。佳音は目を上げて、和寿の言ったことを確かめるように、向かい合うその顔を凝視した。
頬とあごにある無精ひげは、カミソリがないこの工房では処理できなかったのだろう。昨夜よりは明るい表情になっているとはいえ、半月前に会った時とは別人のようにやつれている。
ひげも剃れないほど何も手に付かなかった原因は……、いわゆる“恋煩い”なのだろう。それほど、和寿が佳音を一途に純粋に想っていることの表れなのかもしれない。
だけど、その想いは、和寿を破滅させる。
現に、仕事にも支障をきたしてしまっていて、このままでは会社の中での和寿の信用も失墜してしまう。