恋は死なない。



「そうですか。それは、よかったですね…」


本当は、和寿が会社でどんな仕事をしているのか尋ねてみたかったが、佳音はそう答えるにとどまった。こんな世間知らずな自分が、和寿の仕事の話題で、対等に話しができるとは思えない。


「ひと段落はしましたが、仕事の成果が出るのはまだまだ先のことです。失敗すると、会社に数千万…いや、億単位の損失を与えてしまうので、これからも気は抜けませんが」


それを聞いて、佳音は密かに息を呑んだ。億単位の仕事をしているなんて、やはり和寿は佳音の想像の及ばない世界に生きている人間のようだ。
和寿に返す言葉が見つけられず、佳音が針を動かす手元を見つめていると、携帯電話の着信音が鳴った。

自分の携帯電話のものだと、和寿は気が付き、ジャケットのポケットを探ってそれを取り出す。


「はい。……うん?……うん。えっ!なんだって!?」


電話に出た和寿の声色が変わったことに、佳音も目を上げて様子を窺う。


「……分かった。すぐに会社に戻る」


そう言うや否や、和寿は立ち上がった。


「森園さん、すみません。今日もやっぱり、ゆっくりできなくなりました」


そう言いながら、取るものも取りあえず和寿は急いで玄関口へと向かい、靴を履く。佳音が声をかけるのも待たずに、和寿はドアを開けると、風のように姿を消してしまった。


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