恋は死なない。
「……あの、昼間に持ってきて下さったケーキ、食べて行きませんか?」
佳音は思い切って、そう持ちかけた。こんな時間に引き留めてしまうなんて非常識かもしれないと思ったが、あのケーキは和寿と一緒に食べなければ意味のないものだった。
「ああ…!あの、ケーキ」
和寿の顔に、パッと明るい笑顔が灯った。
「独り占めできる絶好の機会だったから、てっきり全部食べられてしまってると思ってました」
そして、少し冗談を含ませて、和寿はそう続けた。佳音にも、自然と明るい笑みが湧き出てくる。
「私はそんなに食いしん坊じゃありません」
呆れたようにそう返してくれる佳音に、和寿はもっと楽しそうな顔になる。佳音に促されるまでもなくダイニングへと向かい、自然な動きでテーブルに着いて、まるでそこが自分の居場所のように落ち着いた。
和寿が買ってきてくれたケーキは、洗練されているのに趣向も凝らされていて、芸術品のような一品だった。
佳音がケーキを載せた皿と紅茶を出し、楽しい雰囲気で向かい合う。
しかし、いざとなると、佳音は食べてしまうのがもったいなくて、フォークが入れられない。
「……ケーキ、ホントは好きじゃなかったですか?」
和寿が心配そうに覗き込んでくる。
「いいえ…!そういうわけではありません。ケーキは大好きです」
とっさに佳音も首を横に振って、和寿の心配を打ち消した。