雨のようなひとだった。
少しだけ後ろからついてくるように歩いている彼女はとても楽しそうに笑う。
その感情には何ら嘘はないと、俺は思いたい。
疑ったところで俺たちを緩く結びつけているひもは簡単にするりとほどけてしまうのだから、今こうして笑い合っている時間だけは真実だと、思っていたい。
手を伸ばすと、少しだけ躊躇してからそっと手を重ねてくれる。
指を絡めあうような濃厚な繋ぎ方はしない。
ただそっと重ねるだけだ。
恋人とも友人とも違う俺たちの奇妙な関係性は、手の繋ぎ方すらわからない。
俺が彼女について知っていることなんて、たったの2つ。
ひとつは、彼女は以前喫茶店の上にある狭い居住スペースに住んでいたということ。
荷物を運び出すときに訪れた時には驚いた。
今時大学生のひとり暮らしでもここまで狭くないだろうというレベルの、布団を敷いたらいっぱいになってしまうほどの面積。
『せっま』
思ったまま口にした俺に、彼女はその時ばかりは責めるような視線を投げかけていた。