雨のようなひとだった。

『な、なんかマズイこと…言ったっぽい、っすね』
『……マスターが居ていいと仰ってくれたんです』
『え?』

 俺が彼女について知っている、ふたつめのこと。
 それは、マスターと遠い親戚にあたり、行くあてのなかった彼女に『ここに住め』と半ば無理矢理住まわせたとのことだった。
 仕事の斡旋――というよりも自分の店で働くようにしたのもマスターであり、彼女はマスターに対して言葉には出来ないほどの感謝でいっぱいだと言った。

 何故行くあてがなくなったのか。
 そして彼女はどこから来たのか。
 故郷はどこで、ここへ来る前は何をしていたのか。

 俺は何も知らない。

 話の流れで訊けばよかったのかもしれないと今こそ思うけれど、もう、訊けない。


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