雨のようなひとだった。
 一緒に帰宅した夜にすることといえば、俺はまず風呂場を軽く洗って湯をためる。
 彼女はその間、夕飯を作ってくれる。
 軽い片づけくらいならともかく俺の部屋の物の位置を勝手に動かしたり綺麗にすることはやはり憚られるらしく、彼女は炊事と洗濯を担当すると自分から申し出てくれた。
 ……俺も一応下着を洗われることに恥ずかしさがなかったわけではないが、『慣れているから大丈夫です。…あっ、父の、とか』と押し切られるかたちで役割分担となった。

 シャワーヘッドを雑に動かし壁の泡を洗い落としながら、水音に混じって微かに聞こえる火にかけたフライパンの音に耳を澄ませる。

 俺たちが恋人でもないただの「同居人」となったのは、あの雨の夜から半月ほど経った頃だった。
 マスターが息子夫婦と住む家から出てきたと、彼女にこぼしたらしい。
 それならば元々マスターの持ちものである部屋を空けようとするのは当然の事で、それなら彼女はどこに住むのか、いや私なら大丈夫ですからと押し問答になっているのを店に訪れた俺がたまたま耳に挟んでしまい———

 そうだ。あの夜も、雨だった。




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