雨のようなひとだった。
「………ん?」
その時、コン、と小さな音がした気がして伏せていた顔を上げる。
彼女が帰宅したのだから物音がするのは至極当然なことではあるが、生活音とは違う何かが確かに耳に届いた。
ひとり暮らしを始めた大学生の頃から使っているベッドは少し動いただけでギシリとうるさく軋むので、全ての動きを止める。
―――コン
間違いない。
俺の部屋のドアをノックする音だ。
思わず身体を起こしかけ、再び止める。
「………あの」
ノックの音よりもさらに密やかな声が遠慮がちに続いた。
彼女がドアの前に立ち、ノックをしている。
風呂や台所の事で困ったことがあればもっと慌てたように声が飛んでくるはずだ。
こんなふうに改まって俺の部屋を訪ねてくるなんて、これまでただの一度もなかった。
「……寝て…るのかな」
迷ったように呟く声すら聞こえるほどの静寂の中、動こうとしても動くことが出来ずにいる。