雨のようなひとだった。

 でも今目を潤ませている理由はあの日と意味が全く違う。

「ごめんな」
「え?」
「俺、お前に甘えてばっかだったから」
「そんなこと……」
「あったからフラれたんだろ、俺」

 ぽかんと俺を見た千歳は涙を目元にためたまま笑い出した。
 ぽろぽろと目の縁から涙が落ちていくが、千歳は楽しそうに笑い続ける。

「フラれたのは私だと思ってたけど?」
「いや俺だろ。他の男にさっさと持ってかれたんだし」
「じゃあそういうことにしておいていいよ」

 ……千歳がこんな風に俺の前で笑ったのを、別れる半年前あたりから全く見なくなったことを思い出して胸が少し痛んだ。

(だよな。これが千歳だ)

 やけに感傷的になっている自覚はある。

 だけど今日くらいいいだろう。
 もう元には戻れないことをわかっていても、幸せを祈る資格くらいあってもいいだろう。


< 56 / 100 >

この作品をシェア

pagetop