雨のようなひとだった。

「私、嘘をついてました。……ごめんなさい」
「嘘?」
「明日にでも……マスターにも言わなくちゃ」
「え、え、何がです?」

 突然出てきた“マスター”という言葉にまたもや混乱した。
 彼女は俺の胸元へと手を伸ばして、労るように撫でる。

「私……知っていたんです。あなたのことを」
「は」
「あなたがあの喫茶店へ初めて来店されるより、数か月前に」
「え、ちょっと待っ……マジで?」
「マジです」

 つい素が出た俺を目をやっぱりまっすぐ見つめてくれる彼女は、今度こそ嘘は吐かないと告げているようだった。
 だから……怖い。
 全てを話したら彼女が居なくなってしまいそうで、俺は怖い。

 だから嫌だ。


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