雨のようなひとだった。
パズルのピースが合ったような感覚に陥った。
彼女を思い出そうとするといつも雨が隣にある。
雨を見ると、彼女を思い出す。
触れただけで不思議なまでの落ち着きを覚えたのは俺も同じで、それを“息がしやすい”と喩えた彼女の想いがほんの少し見えた気がした。
最後の夜にひとつだけ、我慢できずに訊ねた事がある。
『……名前、は』
天井を仰いで目を伏せたまま、外から聴こえてくる雨の音にかき消されそうなくらい小さな声で。
繋がれた手に力が込められたあと、彼女は答えた。
『正面から真己さんに会いに行ける日が来たら……私から名乗ると約束します』
『……狡いな』
『狡いですよ』
苦笑気味に答えたらそう返されて、思わず笑った。
開き直ったとも傷ついたとも思わない、さっぱりとした声だった。