恋の指導は業務のあとに

夜7時の社内。

いつも通りに営業主任の仕事を片付け、帰り支度をしているとスマホがLINEの着信を告げた。若葉からだ。


『何時ごろ帰りますか?』


チワワの“待ってるワン”のスタンプ付きだ。

こんな風に帰り時間を訊いてくるなど珍しく、しかも待ってるとは、自然に頬が緩む。

ということは、今夜は、若葉がずっとコソコソしていた事の答えを、ようやく聞かせてもらえるのだろうか?

期待半分で『あと30分くらいで帰る』と返事をして会社を出ると、空から白いものが舞い落ちていた。


初雪、か・・・道理で冷えるはずだ。


コートの襟を立てて家路を急ぎ、若葉の待つ温かい部屋を目指した。


「おかえりなさーい。うわっ、外は雪ですか?寒かったですね」

「だから、あたためてくれ」


外気で冷えたコートを着たまますっぽりと腕の中に入れると、若葉は「ひゃあっ、冷たいです~!離して!」と言ってジタバタする。

若葉の反応は素直で面白く、一緒にいて飽きない。

以前付き合った女は、こんな時はじっと我慢していた。

黙って抱かれており、そんな感じの小さな我慢が蓄積して爆発し、別れに至った。

おとなしく従順なだけの女は、もう懲りた。


腕の中でぐいぐい暴れていた若葉が、急におとなしくなった。


「どうした?」

「あったかくなってきたから、このままでもいいです」


そう言ってぎゅっと抱き付いてくるから愛しくなる。

さて、この先どうするか・・・。


「俺に用とは、抱いてほしかっただけか?」

「へ?ち、違いますっ。そうだ、奥に、奥に入ってください」

「奥、か。いいのか?」


遠慮しないぞ?と抱きしめる腕を強めると、再びジタバタし始めた。

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