恋の指導は業務のあとに


「さあ先輩社員たちに挨拶しましょう。これから互いに切磋琢磨していく仲間たちです」


平井さんに連れられて開発課と管理課の社員に挨拶をして、その日は営業課の社員の顔を見ることなく帰宅することになった。

平井さんの話によると、私は明日から営業課の主任に指導を受けることになるらしい。

そういえば、名前を訊いておくのを忘れてしまった。

開発課と管理課の先輩社員たちがいろいろ話してくれたけれど、どんな人なのだろう。


駅に向かって歩いていると、スマホがブルルと震えた。

電話はマンションの管理会社の門田さんで、荷物を搬出したことと修理の開始日の知らせだった。

業者の仕事が立て込んでいて、開始は4日後になると言う。

これは同居解消の日がかなり延びそうだ。羽生さんにも教えておかなければ。

そう思って彼の帰りを待っているのだけれど、もう9時になるっていうのに帰ってくる気配がない。

朝も私が起きた時には既に居なくて、カウンターの上に『合いカギだ』のメモと一緒にこの部屋の鍵が置いてあったのだ。


朝早く夜遅いって、何の仕事をしているのだろうか。

それともデートで遅いのだろうか。

今日は帰ってこない、なんてこともあったりして・・・?

互いに干渉しないってルールだけれど、こんな風に用事がある時は気になってしまう。


この分だと明日の朝も会わない気がするので、彼の真似をしてカウンターの上にメモを置いて、その日は眠りについた。

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