恋の指導は業務のあとに

「女子ですよ、営業課に初女子!いやあ、イイなあ」


清水さんは私の隣でにこにこしている。

清水さんはカルイ人だなと思うけれども、そんなことより、迫り来る二度目の不運から何とか逃げられないか考えてしまう。


「清水、騒がしい」


主任らしき人は清水さんに一喝すると、私の前に立った。

逃げられないよね、やっぱり。


「営業課主任、羽生健二です。よろしく」


羽生さんは私を見ても全然表情を変えない。

驚いてるのは私だけなのだろうか。

それか、私だと気づいていないのかもしれない。

あの日と違ってきちんとメイクしているから、印象が大分違うはずだ。

そう、今の私は年相応に見えるはずなのだ。


「い・・・池垣、若葉、です。よろしく、お願いします」


逃げたい。

そんな衝動に駆られるけれども、グッとこらえる。

どうしてこの人と一緒の会社で、同じ部署で、しかも直属の上司なのだろうか。

おまけに指導されるだなんて、会社でも家でも一緒にいるってことになる。


私の気持ちを知ってか知らずか、羽生さんは口角を上げるだけの笑顔を見せる。

それがとっても美しくて、普通女子のハートを一撃するのだろうけど、私にはなんとも意地悪く見えてしまう。

一昨日に見たスウェット姿とは違って、髪を整えてパリッとしたスーツ姿は、それはそれはとても素敵に見えるけれども。

仕事モードの羽生さんが纏う空気はひんやり冷たくて、傍に来ただけで気温が10度くらい低くなった気がするのは、私だけなのだろうか。

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