恋の指導は業務のあとに
羽生さんはカチンと固まっている私の肩を抱いて、くるんと営業課のデスクの方に向けた。
肩に手を置かれたままだから、気のせいか、ものすごーく女子社員たちの熱い視線を感じる。
この人が口が悪いこと、みんな知らないのかな。
それともこのクールな感じが好きだとか・・・。
「みんなに紹介する。新入社員の池垣若葉だ」
「へぇ、生垣の若葉っすか。垣根みたいな名前っすね!」
清水さんが部内全部に響きわたるような大きな声で言った。
一昨日に続いて、再び地雷を踏まれてショックで固まる。
どうして男子はこうもデリカシーがないのか。
琴美は素敵な名前って言ってくれたのに、ここでも垣根は付いて回るのか。
「あの、生じゃなくて池です。宜しくお願いします」
どうにか気を取り直して、昨日から飽きるほどに言っている挨拶の言葉を繰り返し、8人いる営業課のみんなの顔と名前を必死に覚えた。
挨拶の後すぐ業務が始まり、みんながパソコンに向かったり電話したりしている。
「当然だがうちの主力製品のことは知ってるな」
「はい。積み木やパズルなどの知育玩具です」
「遊んだことはあるか」
「はいっ、積み木と動物パズルならあります!あと、ひらがなブロックも!」
「ふぅん、じゃあちょっと来い」
商品部から出ていく羽生さんの背中を追っていくと、資料室と書かれた部屋に入った。
そこにはガラスの棚がたくさん置かれていて、中には知育玩具が整然と並べられている。
色の無い木材そのままで作られた古い物から、プラスチック素材の原色も目に鮮やかなものまである。