恋の指導は業務のあとに
「羽生さん、外回りですかぁ?何時の帰社予定ですかぁ?」
牧田さんは舐めれば甘そうな声を出して、潤んだ瞳で上目使いにして“羽生さんに好意があります”アピールをしている。
マイナス10度の気もお構いなしに話しかける牧田さんは、相当に気が強そうだ。
「指導中なので、16時には戻ります」
「新入社員のご指導中ですかぁ、お疲れさまですぅ~。で、あなたが、新入社員さん?」
「はい。池垣です。宜しくお願いします」
牧田さんは私のことを頭から足の爪先までサッと見て、フッと不敵な感じで笑った。
今この人、私の容姿を見て“勝った”って思った?
「営業はぁ、大変そうなお仕事だけどぉ、頑張ってねぇ?」
なんだかネチッとした言い方だけれど、一応激励してくれている。
そして私を見る目はちっとも優しくなくて、あからさまな敵意が見える。
宣戦布告?それとも牽制?
私にはそんな気ないのに。
羽生さんを彼氏に~なんて、そんなの有り得ないです~。
そう言いたいけれど、今は言えない。
「あ、いってらっしゃぁ~い」
牧田さんの、ハートを投げかけるような勢いに圧倒されていると、羽生さんは既に自動ドアの辺りまで行っていて焦る。
「じゃ、いってきます」
牧田さんに挨拶をして慌てて追いかけると、外で待っていた羽生さんは眉間にシワを寄せた。
その顔、すごく怖いんですけど。
「ボンヤリするな」
「はい、すみません!」
行くぞ、と言ってスタスタ歩いていく羽生さんの後を、追いかけた。