恋の指導は業務のあとに

裸足のままスペースから出ようとしているので、咄嗟に駆け寄っていって抱き上げると、泣きながらバタバタ暴れた。

これでは人さらいと勘違いされそうだ。

急いでプレイスペースの中に入って暴れる男の子を下に下ろして目にとまった玩具をとって、目の前で遊んで見せた。


「ほらほら、泣かないで、これ見てー。ほら」


透明な筒の中をカラフルな球がころころ転がってチリリーンと鳴る。

そう、これは入社二日目に全力で遊んだ我が社の知育玩具『ころころりんりん』だ。

男の子は無垢な瞳に涙をいっぱいに溜めたまま、球が転がる様子をじーっと見ている。

チリリーンと鳴って球がころんと出てくると、指をさして意味不明な言葉を言いながら私を見る。

その表情は明るくて、どうやら喜んでくれているみたいで、ホッとして私も笑顔になる。


「ね、面白いでしょう?ほら」


上の穴に球を入れてコロコロチリリーンとしていたら、他の玩具で遊んでいた子どもたちが寄ってきた。


「これ、うちにあるよ!」

「うちにも!」


今まで遊んでいたらしきものをそれぞれ手に持って、瞳をキラキラと輝かせて「これで弟が遊んでるんだよ」とか「うちねえ、今度赤ちゃんが生まれるんだよ」とか一生懸命話しかけてくる。

肝心の泣いていた男の子は『ころころりんりん』で遊んでいた。


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