恋の指導は業務のあとに
営業の仕事はほとんどが外回りで、会社にいる時間は少ない。
お陰で牧田さんと顔を合わせることが少ないけれど、終日外にいるのでランチ代がかかってしまう。
羽生さんがご馳走してくれるけれど、そんなに甘えてばかりいられない。
羽生さんは『上司が払うものだ。黙って奢られておけ』と言うけれど、なんだか恐縮してしまう。
「やっぱりお弁当作ろうかな」
そうしたら羽生さんの分も作った方がいいよね。
同居初日に“女子力ねえな”って言われたことを思い出した。
私の家は料亭で、幼い頃から料理の仕方は見てきているのだ。
実際には作ったことがないけれど。
よし、頑張って美味しいものを作って、私にも料理ができるところを見せてあげるのだ。
「えっと何があるかな。お弁当のおかずにできそうなものは・・・」
キッチンで冷蔵庫の中身をチェックしていると、玄関のほうでカタンと音がした。
羽生さんが帰ってきたんだ。
今はまだ10時、いつもよりもスペシャル早い。
今日はデートしなかったんだろうか。
というか、音がしたのに全然こっちに来ない。
「ハッ!まさか、泥棒!?」
そういえば、鍵をかけてなかったかもしれない。
棚からフライパンを出してぎゅっと持ち、そーっと廊下への戸を開けると、玄関で人がうずくまっていた。
ぐったりしていて、どう考えても普通の状態じゃない。
「羽生さん!?どうかしたんですか?」
フライパンを下に置いて駆け寄って顔を覗きこむ。
頬が赤くて息が荒い。
酔っているのかと思ったけれど、お酒の匂いがしない。
額を触ってみるとすごく熱かった。