性悪女子のツミとバツ

彼は、あの日荒れていた理由については話そうとはしなかった。
だから、私も聞かないことに決めた。

昔何かの記事で読んだことがあるが、人に話を聞いてもらうことでストレスが解消される人もいれば、人に話すことが逆にストレスになる人もいるらしい。

とにかく、彼が立ち直ってくれれば、その方法は何でも構わない。


…と、あの日思ったことは間違いではないが、まさか自分が妊娠しているとは、私も今日まで思ってもみなかった事だった。
だから今、彼の腕にしっかりと抱きしめられながらも、私自身はかなり戸惑っている。
何の覚悟もないままに、子供を授かってしまった。考えが甘いと言われるかもしれないが、自分が母親になることが全く想像できないでいる。

それでも。
私な妊娠を告げた時、彼はあの日のように頭を抱えることもなく、むしろ今まで私が見た中で一番と言ってもいいくらい喜んでくれた。
それだけで、私は死ぬほど安心して、ちゃんと逃げずに頑張ろうと思えるから、不思議だ。

「明日はお祝いに何かいいもの食べに行こう。」
「……けんか売ってる?私、気持ち悪くて何も食べられないんですけど。」
「ああ、そっか、悪い。」
「それより、ちゃんと病院行かなきゃ。」
「うん、俺も付いてくから。」
「別に、一人で大丈夫だけど?」
「俺が一緒に行きたいだけだから、放っといて。」
「あっそ。」

本当は一人で心細いくせに、そんな態度をとってしまう私を、彼はいつものように丸め込んで、結局は自分の思うとおりにしてしまう。
客観的に見ても、田村崇之はとても賢い人間だと思う。こんな女に引っかかってしまったことを不憫に思うくらいだ。
でも、残念ながら離れてはあげられない。彼ほど、私のことを正しく理解し、そして愛してくれる人はいないだろう。

「でさ。帰りに区役所寄ってさ、母子手帳と婚姻届もらってこよう。」
「気が早いわよ。」
「そこは、うんって可愛く頷くとこだよ、萌ちゃん。」
「そんなの、私らしくないでしょ。」
「まあ、何でもいいや。責任取って結婚してくれるなら。」
「ちょっと待って、責任取るのは私なの?」
「もちろん。俺、出来ちゃった結婚も初めてよ。」

そして、また。
私以上に彼を振り回せる女はいないだろう。
私はわざとらしくため息をついてから、彼に聞こえるように囁いた。

「こんな面倒な女、構うからいけないのよ。」

私は彼の腕の中で、幸せ過ぎて思わずにやけそうになるのを必死に堪えていた。
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