性悪女子のツミとバツ

「あら?あなた…」

少しだけ膨らみはじめたお腹に手を当てて、診察の順番を待っていると、待合室に入ってきたばかりの女性に声を掛けられた。
臨月かなと思うくらい、大きなお腹を抱えながら、私を驚いた顔で見つめる彼女の顔には見覚えがあった。

三年近く前に、私を泥棒猫と罵って、ビンタした令嬢。
あれから、予定通り婚約者の彼と結婚したらしい彼女は、何を思ったのか、どっしりと私の隣に腰を下ろした。

「お久しぶりです。」

なんと言ったらいいのか分からずに、とりあえず当たり障りのない挨拶をする。
彼女は、私の戸惑う様子を見て、突然可笑しそうに笑い出した。

「間違ってないわね。確かに“久しぶり”だわ。」

よほど私の発言がツボだったのか、彼女はクスクスと笑い続けている。私は、どうすることも出来ずに、そのまま無表情で佇んでいた。
彼女はひとしきり笑った後で、再び話しかけてきた。

「今、何ヶ月?」
「四ヶ月です。あなたは?」
「随分おなかは大きいけど、まだ8ヶ月よ。双子なの。」

どうして、私なんかと話をしようと思ったのか分からないが、彼女はどんどん質問を続ける。

「結婚したのね?」
「ええ、まあ。」

私の左手の薬指に光るリングに気づいたようだ。
あれから、すぐにお互いの両親に報告をして、籍を入れた。すでに親と会社公認で同棲していたからか、特に反対もされず、何の問題もなく、私は田村萌になった。


「じゃあ、もう時効よね?」
「…何がですか?」

隣に座る妊婦の彼女は、突然不敵な笑みを浮かべると、淡々と三年前の秘密を語り出した。

「私、本当はあなたの存在に随分前に気がついてたわ。でも、知らないフリをしてたの。」
「何のためにですか?」
「確実に彼と結婚するためよ。あなたとの浮気を私が許すことで、彼はきっと私に頭が上がらなくなると思ったの。」

ふふふと可愛らしく笑った彼女だが、話の内容は全然可愛らしくない。

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