グリッタリング・グリーン
息せききってスタジオに走りこんできた葉さんを、エマさんの叱責が迎えた。
「遅い!」
「ごめん、気がついたら寝てた…」
小さくなって告白する姿に、10名ほどのスタッフが笑う。
「早く仕事に戻って、確認してほしいことが山積みよ」
「うん、みんなごめん、引き続きよろしく」
シンプルな謝罪と、信頼のこもった言葉に、頼もしい笑顔たちが応えた。
土曜日の今日、コピーやら出力やら食事の準備やら、手伝えそうなことは全部するつもりで来ていたので。
リフレッシュの助けになるかなとデスクに戻った葉さんに冷たいハーブティを出すと、嬉しそうに笑う。
「中、なんかいい匂いする、生方がやったの?」
「アロマディフューザーを昨日見つけたので」
スタジオとかプロダクションて、ほんとなんでもある。
隅っこのキッチンエリアにしゃれたディフューザーが飾られていたので、絶対あると思ってオイルを探したら、あった。
「音も?」
「はい、これ葉さんがアトリエでよく聴いてるアーティストですよね、偶然そこのライブラリにあったんです」
エマさんがあきれたように腕組みをする。
「葉が寝ちゃうわけだわ」
「私が外した時点では、考えごとをしているふうだったんですが…」
「単に思考停止してたんでしょ、葉が落ちる前のサインよ、朋枝さんに来てもらってよかった」
B全サイズの出力を貼り合わせたグラフィックを大きな作業机に広げながら、葉さんがうなずいた。
「平和な気分になるよね」
「何も寝るほどリラックスすることないと思うけどね」
最近あんまり眠れてなかったんだ、と恥ずかしそうにする葉さんに、遠足前の子供ね、とエマさんが冷静に返す。
その時、建屋に繋がる入り口のほうで人の気配がした。
ヨウ! と底抜けに明るい声がスタジオを震わせ、葉さんが顔をほころばせて振り返った。