グリッタリング・グリーン
片頬を痛そうに歪めて煙草に火をつけた慧さんが、驚くほどの素早さで振り返り、葉さんを引っぱたいた。

よろけた葉さんが鉄の壁にぶつかって、痛みに呻く。



「葉よ、いい加減にしろや、お前の現場だって知ってりゃ来なかったよ、だけどな」



緊張の面持ちで見守るスタッフを、手で示した。



「てめえの現場だって言うなら、それなりの責任見せろ、なんだ、仕事ほっぽって身内とケンカして、スタッフびびらせて」



お前こそ恥ずかしくねえのか、と煙草で指す慧さんを、葉さんが悔しげに見あげる。

相当な力で叩かれたらしい頬は、真っ赤になっていた。



「…出ていけ」

「出てくよ、言われなくても」



慧さんは監督を振り返り、悪い、と手をひらひらさせた。



「久々にお前の仕事、見たかったんだけどな、まあうちのバカ息子をよろしく教育してやってくれ」



そう笑うと、葉さんの脇を通って、入ってきたばかりの戸口のほうへ向かう。

何かが破裂するような音がしたのは、その時だった。


誰ひとり、何が起こったのか理解していなかった。

今度は続けて、バリンという鋭い音が何度か響く。


それはスローモーションみたいに見えた。

見上げるサイズの鉄の板が、自重に耐えかねたようにゆっくりとたわんで、溶接された箇所が音をたててはがれていく。


天井からスチールを吊っていたチェーンのひとつが、弾け飛ぶのが見えた。

つられるように、隣り合う鎖が次々と引きちぎれて、鉄板の片端が床に激突する。


身のすくむような轟音。


演出のため床に撒いていた石灰が巻き上がったせいで、何も見えなかった。

残響と白煙がおさまった時。

葉さんがいたはずの場所には、禍々しくひしゃげて破れ落ちた鉄の壁の一部がコンクリートの床をえぐり、生々しい傷跡と一緒に横たわっていた。

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