グリッタリング・グリーン
忘れようとしたって無理です。

あの部長の狼狽を思い出して、笑おうとしたら、急に、静かな音楽が流れる部屋で隣りあっている状況を意識して。

言葉をなくした私に、葉さんが眉を上げる。



「俺はたぶん、今日もああなるよ、ていうかそのために飲むわけなんだけど」



私のグラスにも注ぎ足しながら平然と言い、コルクを軽くはめると、ボトルをテーブルに戻して。

え、と言葉の意味を考える私を、うかがうように見た。



「嫌なら帰ったほうがいいよ」



笑ってない葉さんの視線が、刺さる。

どうして今ですか。

せっかく楽しく飲みはじめるところだったのに。


でも、と心に問いかけた。

そうするまでもなく、返事は自然と口から出た。



「帰りません」



からかわれることも覚悟したのに、葉さんは、驚いたように軽く目を見開くと。


すごく嬉しそうに、笑った。


その素直な笑顔が、可愛いなあ、と思って。

見つめているうちに、ふいに近いなと感じて。



唇に温かいものが、重なった。



一度離れて、目が合った。

また重なってくる、柔らかい感触と、ワインの香り。



「…もう酔っ払ったんですか」

「していいって言うから」

「帰らないって言っただけです」



肩を抱いて、のぞきこむようにゆっくりとキスをくれる。

ジャケットを脱いだ葉さんの腕には、半袖の下に、黒いサポーターが当てられているのが見える。

回された左手の指の、外側の二本にしか力が入っていないのが確かにわかって、心の隅が痛んだ。



「他に何かあれば聞くよ」

「他に何か?」

「俺に言いたいこと」


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