グリッタリング・グリーン
ほうり出してあった携帯が震えた。

加塚さんだ、と弾んだ声で出ると、恋人かと突っこみたくなる調子で、芝の上でごろごろしながら会話を始める。


そばに座って、午後は何をしようかなあ、なんて考えた。

来月には夏休みも控えてる。

葉さんの予定は、どんなだろう。

一緒に少し遠出するくらいは、できるだろうか。


葉さんが、顔の前で手を握ったり開いたりしながら、ぼちぼち、と笑った。

左手の指は、確かに以前より、自由が戻ってきているように見える。


上腕にはもう、サポーターもない。

治すよ、と言いきる葉さんが、車を手放す気がないのを、知ってる。

いつか絶対に、元どおりにしてみせるって、心に決めてるのを知ってる。



…長いな、電話。

存在を忘れられている気がして、上からのぞきこむと、葉さんが、あっという顔をした。

やっぱり。


さすがに慌てたらしく、身体を起こそうとする。


それでも、電話をやめる様子がないので。

身をかがめて、話し中の口元に、さかさまのキスをした。



葉さんは、ぽかんと口を開けたまま。

中途半端に座りかけた体勢で、とまってる。



「…あっ? あ、ごめん加塚さん、聞いてなかった」



芝のついた髪を直す顔が、みるみる赤く染まるのを笑いながら、坂をのぼった。

小高い丘になっているそこからは、海が見渡せる。


中腹にとり残された葉さんが、真っ赤な顔で、悔しそうな視線を向けてくるのが、おかしくて。

彼はすっかり持ち崩したようで、ごめんかけ直す、としどろもどろで電話を切ると、おい、と駆けあがってきた。



「何すんだよ」

「お気になさらず、電話、続けてください」



何言ってんの、と傾斜の下から手を引っぱる。

私はよろけて、たぶん向こうの狙いどおり、胸に飛びこむ形になり。

結局ふたりともバランスを崩して、もつれるように芝生の上に倒れた。

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