グリッタリング・グリーン
「また気が向いたら、俺の絵を使ってよ」
「でもあなたは、絵でやっていくつもり、ないんでしょう」
葉がびっくりしたようにこちらを見る。
失礼ね、半年一緒にやっていれば、そのくらいわかるわ。
葉の感性が生み出す世界は、カンバスと絵の具では到底表現しきれない。
いかにも現代っ子らしい感受性を持ち、なおかつあの父親の元で、古今東西の本物に触れてきた葉を、絵画のカテゴリに収めておくのは無理だ。
この子は、表現する手法も、伝達する手段も、好きに編み出せる時代に生き、それを楽しんでいる。
「でも忘れないで、制約のないところに、本当の美は生まれないのよ」
「モダンアートは嫌い?」
「誰もやっていないことをする、それだけが目的の作品を、私は認めないの」
「同感だよ、もっとこういう話、したかったね」
「あら、しましょうよ」
葉が目を見開いた。
はっと思い出したように、ボトルを差し出してくる。
私はあえて、それを受け取らずにいた。
「仕事もないのに」
「仕事がないと、お喋りもできないの?」
「だって、あんたは…」
置き場に困ったように、葉はボトルを持った手を、宙に浮かせたまま。
私は? と尋ねると、かなり長いこと言葉を探してから、大人だし、と小さく言った。
「あなたは違うの」
「俺は、ガキだよ」
「でも、プロだわ」
「それでも、ガキだよ」
ミニドレスを着た私が脚を組み替えると、葉の視線が素直にそこに落ちる。
くすっと笑ったのがわかったのか、むっとした顔で、それでも少し、恥ずかしそうにした。
「じゃあ待ってるわ、いつ大人になるの」
「いつって」
私が手を伸ばすと、ようやくボトルを渡せると思ったらしく、ほっとした表情で差し出してくる。
それを無視して、手を彼の腿に置いた。