グリッタリング・グリーン
「エマ」
「なあに」
口移しする間に、ボトルはほぼ空になった。
その後も葉は何度か、場所を変えたそうなそぶりを見せたけれど、私が許さずに、まだ椅子の上。
エマ、とまた呼ぶので、目を上げると、切なげに眉根を寄せて、葉がこちらを見ていた。
荒い吐息が、限界が近いのを知らせている。
「暑い…」
「まだ空調が整ってないのよ」
保管庫を優先したため、この展示スペースに温度と湿度を管理する設備が入るのは、これからだ。
シャツを脱がせても、暑い、としきりに訴えるので、ボトルにわずかに残っていたシャンパンを肩からかけた。
うわ、と首をすくませて、非難するような目で見る。
「なあに」
「非常識だよ」
「何が? 場所が? 行為が? 私たちの関係が?」
ぽかんとしてから、全部だと気がついたんだろう、途方に暮れたように噴き出した。
それで、ようやく気持ちがほぐれたらしい。
子どもらしい、あどけない顔で、笑う。
私は膝についた砂を払い、彼と向かい合わせに、その腿に乗った。
見上げてくる瞳は、獰猛な光を潜めて潤んでる。
震える吐息にキスをした。
人見知りで誇り高い、この男の子のこんな顔、見たのは私だけね。
そんな優越感に浸りながら。
「まあ、いずれ他の誰かが見るわね」
「何を?」
「なんでもない、いただきます」
汗の浮く鼻筋に、チュッとキスをする。
宣言どおり、いただいた瞬間、葉が呼吸を飲みこんで、ぎゅっと私の身体を抱いた。
それが可愛くて、つい笑ったのを感づいたらしく、じろりとにらんでくる。
「しっかり、味わってよね」
「味わってるわよ、最高」
「俺、酔っぱらってる…」
どうしたの? と訊くと、せっぱ詰まった吐息の間に、声を絞り出して。
不思議そうに言った。
「あんたが色っぽく見える」