グリッタリング・グリーン

どういう意味よ、とのちに訊くと。

だって仕事してる時は、戦車みたいだからさ、と葉は説明してくれた。


展覧会は成功した。

葉の絵は、ひとつを除いてすべて買い手がつき、そのひとつというのは、ニックが事前に購入したため非売品として展示されていたものだ。


その他に集めたアーティストたちも、それぞれに手応えを感じてくれたようだった。

作り手と世界の架け橋になれる仕事。


その実感を、私はさらに強く、欲するようになった。





「エマ、最近あの子、どうしたの」

「どの子?」

「男の子よ、クリエイターの」



ああ、と背中合わせのデスクから、ルームメイトに返事をした。



「向こうも忙しいみたい、エージェントから仕事が次々来るから」

「そのエージェント、最近トップが変わって、ちょっと強引すぎるって噂よ」

「知ってるわ」



受験勉強のために一時的に業界から身を遠ざけていた私は、振り向いた。

シンガポールから来て、日本のエージェンシーで働くルームメイトが、黒目がちの瞳を向けてくる。



「あの可愛い子も、食い物にされちゃうかもよ」

「葉はむざむざ食われるほど弱くないわ」

「実力だけじゃ、やっていけない世界よ、まだ19歳なんでしょう?」

「もうすぐ二十歳よ」



葉なら大丈夫。

このくらいの試練、乗り越えてくれる。


そう頭から信じて疑わなかった私の、怠慢と慢心を、どうか許してね。

自分のことしか頭になかった、あの時期の私を、笑ってやって。


留学中にニックから、葉がエージェンシーから抜けたことを聞いた。

それでもなお私は、葉がひとりでやっていけるくらいにクリエイターとして成熟したのだと、そう受け取った。





「なんですって?」

『当時同じエージェンシーに所属してた友達から聞いた話だから、間違いないよ、葉は解雇されてる』

「円満ではなかったということ?」

『訴訟沙汰にはなってないみたいだけど、あの頃ほら、経営者が変わって、ワンマンになったろ、あそこ』

「ニック、その件をまとめて、私に送ってくれない」

『僕はきみの情報屋かい』

「頼りにしてるってことよ」


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