グリッタリング・グリーン
教えたがりのオタクの性で、ニックはことこまかに調べてくれた。

葉は私の想像を遥かに越えて、エージェンシーにいいようにされていた。



(おもちゃって、このこと…)



葉のあの頑なな拒絶も、無理はない。

どうしてあの子に接触する前に、このことを詳しく知っておけなかったろう。

そうすればもう少し、慎重に近づいたのに。


でもどのみち、変わりなかったかもしれない。

葉の中で、私の記憶は、あのつらい時代と完全にドッキングし、苦々しいものとなってしまった。


最後に交わした言葉は、なんだったか。

最後にふたりで出かけた場所は、どこだったか。


そんなことも覚えていない。

だってそんな関係じゃないと思ってたから。


半年ほどの間、葉の若さと好奇心に巻きこまれるような形で、ひっきりなしに抱きあっていた。

葉はスイッチが入れば熱くなるものの、どうにもそのスイッチが気分屋で、ムードに押し流されてくれない。

雰囲気たっぷりに思えた中、平気でくうくう寝てしまうこともあれば、制作中に突然気を高ぶらせて、誘ってくることもあった。


動物みたいで、可愛かった。

あの頃の私なりに、愛してた。



「償いをしないとダメね」



日本の定宿にしようと決めた、海沿いのホテルの一室で、独り言を漏らした。

私はきっと、無責任だったんだわ。

葉を好きにしておきながら、都合のいい時だけ、お互いもののわかった大人よね、なんて合意を押しつけてた。


まだあの子は、青年と言うにも早い年頃だったのに。

プロとして開花する、一番大切な時期にいたのに。



だけど彼は、開花したのだ。

どうやってか傷を乗り越えて、華々しくその名を轟かせはじめている。


一般消費者まではまだ届かないけれど、クリエーションに携わる人間なら、彼の名を一度は聞いているだろう。

まだだとしても、遠くない将来、必ず聞くだろう。

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