グリッタリング・グリーン
『え、今どこ?』
「ええと…出発ロビーっていうところに着きました」
『どのカウンターが近い?』
「カ、カウンター?」
『近くに見えるアルファベット、何』
きょろきょろ見回すと、確かにあちこちに、アルファベットの書かれた看板があった。
「Jです」
『J?』
探しているらしく、Jってどこだ、という声が少し遠くに聞こえる。
『あった、動かないで』
応える前に電話は切れて、すぐに本人の姿が見えた。
黒いカットソーに黒いダウン、デニムといういつもの恰好に、バッグを斜めにかけて、こちらに走ってくる。
目にかかりそうな髪が、ぱさぱさと揺れるのを見ていたら、なんだか胸がぎゅっとした。
「来るなら言ってよ、出国手続きしたあとだったら、会えなかったよ」
「そうなんですか」
声の届く距離に入るなり、叱られた。
そうだよ、とあきれたように言って、ふうと息をつく。
「何か用」
「あの、間に合うと思ってなかった校正がですね、なんと出たんです、すごくいい出来で、葉さんに見ていただきたくて」
ここに来る車中で、葉さんの絵の入ったページだけ抜き出してまとめた校正紙を、封筒からとり出した。
夜遅い平日にもかかわらず、旅行シーズンに入りかけているせいか、ロビーはにぎわっている。
そんな場所の片隅で、立ったまま葉さんは、何も言わずに用紙を受けとり、目を通しはじめた。