グリッタリング・グリーン
あ、と思った。

私がいつも見とれる顔だ。

葉さんが、仕事を前にした時に見せる、プロの顔。

いっさいの表情が消えて、長いまつげに縁どられた目が、鋭くあちこちを走る。


渡したすべてのページを、何度かくまなく確認したあと、葉さんが顔を上げた。



「いいね」

「本当ですか」

「うん、狙った色が出てる、紙の個性にも合ってるし、調整大変だったでしょ」



お疲れさま、と表情を和らげてくれた時には、私はもう、飛び跳ねたいほど有頂天になっていた。

久しぶりに葉さんが見せてくれた、笑顔。



「これ、もらってっていい?」

「お荷物じゃないですか」

「平気、向こうの奴らにも見せてやろうと思って、俺が絵描いてるっての、全然信用しないからさ」

「じゃあこの封筒、使ってください、スイスでは、お友達もご一緒なんですか?」



封筒を受けとりながら、葉さんが首をかしげる。



「そうだけど、そんなこと訊きに来たの? まさか本当に、ここまで校正見せに来たわけじゃないよね」



私は口ごもった。

手にした校正が素晴らしかったので、一刻も早く葉さんに見せたくなったのも事実だけど、もちろんそれだけじゃない。

でも、じゃあなんで来たのかというと、説明に困る。



「あの、長くお会いできないので、お見送りをと思って」

「ありがと」

「それと、この間の、その、お詫びを」

「この間って?」



チョコを渡そうとした時です、と不承不承答えると、ああ、と葉さんが腕を組む。



「何が悪かったか、わかった?」


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