バンテスト魔法書の保持者
目をとじ、何を思い出しているのか微笑むイナリシア王女。


窓から差し込む朝の日差しが、イナリシア王女を引き立たせるよう。


美しい。


そして憎らしい。


何も知らない、彼女が。


「だからオシレット、普通に接して」


入学同時から、いつも僕はSクラス2位で彼女は1位。


そして「普通に接して」と、会う度にと言っていいほど言ってくる。


「そんなに言うのでしたら、一瞬だけ」


僕はそう言って、イナリシア王女の長い髪を一束手に取る。


そして、サラリとしているその髪を強く握りしめた。


「っ‥‥‥オシレット?」


笑顔のまま、表情は何の変わりもなく。


一瞬だけ、本心で。


「僕、この学園嫌いなんだよね。反吐がでるくらい、本当に嫌い」


「え?」


「何も知らないイナリシア。無垢で純粋で美しい、可哀想な王女様」


「っ‥‥‥」


いつものふざけた笑みを消して、わざと甘やかな声でイナリシア王女と距離を詰める。


息のかかる距離。


そこで僕は力の込めていた手を緩め、握られている美しい髪にキスをした。


「気をつけるんだよ?君如きが、バンテストを扱えるなんて僕はこれっぽっちも思ってない」


「っ、なんでそれを!」


「大きな力を手に入れることは、大きな犠牲が必要だ。君が大病を患った時のようには上手くいかないよ。きっと」


「っ!‥‥‥‥オシレット!」


「なぁに?イナリシア?」


「あなた、またふざけてるでしょう!?」


顔を真っ赤にして、恥じらいの表情を浮かべながらイナリシア王女は言った。
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