溺愛伯爵さまが離してくれません!
・・・ううん、違う。
一番は、自分が苦しみたくないから。辛い想いをしたくなかったから。
それが怖かった。
だから、逃げてしまったのよね。

「もしもね、忘れようと努力しても忘れられないのなら、戻る道もあるのよ?もしかしたら、あなたが思うような結末にならないかもしれないし。それはここにいてゆっくり考えるといいわ。どんな結果を出そうとも、私は構わないから」

「でも、そんな事をしたら奥様は・・・」

「またひとりになったら、その時は別の人を雇えばいいだけだし。あなたがそれを心配しなくても大丈夫。そんな事よりも、自分の気持ちに素直になる事よ」

自分の気持ちに素直になる、か・・・。

「でももう、遅いかもしれません。戻ったところで、もしかしたら、あの人にはもう・・・」

「その時は、またここに来ればいいじゃない。帰る所はあるわよ、私はいつでも受け入れてあげるから」

気持ちいい風が通り抜けて、そのまま私達は何も語らずに風景を眺めていました。

どうするべきなのか、自分はどう行動していけばいいのか。
気持ちを固める事が出来ずにいました。

でも今は、いい。
これでいいの。
どう動いても、これは私の人生なんだもの。

穏やかに流れるこの時のように、ゆっくりと考えていくことにしよう・・・。
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